今回は家族にまつわる物語を紹介(しょうかい)します。
いつも平和な家族ならいいのですが、時には子どもだって家庭のことで悩(なや)んでしまうこともあるでしょう。
『スウィートホーム わたしのおうち』(花里真希(はなざとまき)著(ちょ)、講談社(こうだんしゃ))。中学に入学したばかりの千沙(ちさ)の家の中は常(つね)に散らかっていて、人を呼(よ)べる状態(じょうたい)ではありませんでした。
片付(かたづ)けられないことに落ち込(こ)むお母さんや、いばり散らすお父さんに千沙は不満がたまるばかり。イライラする千沙の物言いもきつくなり、周囲(しゅうい)から孤立(こりつ)していきます。そんな時、登校拒否(きょひ)中の小林(こばやし)や大らかな性格(せいかく)の朝香(あさか)に自分の正直な気持ちを話していく中で、千沙の心持ちも環境(かんきょう)も変化していきます。
一つ一つ整理していくことは部屋の片付けだけに言えることでなく、心や考え方にも通じるところがあります。どうしても一人で整理できない時には、人の力を借りるのも悪くないようです。
家族は協力し合うもの。そのため家の事情(じじょう)で、やりたいことを諦(あきら)めなくてはならない場面もあると思います。しかし海斗(かいと)の場合は本当に諦めなくてはいけなかったのでしょうか。
『マイブラザー』(草野(くさの)たき著、ポプラ社)。14歳(さい)の海斗は、わがままな5歳の弟の世話を一手に引き受けます。両親が共働きの上、海斗の自慢(じまん)だったエリート研究員の父がパン職人(しょくにん)を目指し脱(だつ)サラしてしまったからです。父に失望した海斗は、希望の学校へ入るための受験勉強を諦め、弟の面倒(めんどう)をみることで日々気を紛(まぎ)らわせていました。
そんな折(おり)、海斗を含(ふく)めた幼(おさな)なじみ5人で同窓会(どうそうかい)をすることになるのですが…。さまざまな価値観(かちかん)があることを広く知ることができたなら家族のことも分かり合える、それを教えてくれる一冊(さつ)です。
一方で、家族だけでは癒(い)やせない心の傷(きず)も、人とのかかわりの中で癒やされることもあるようです。『ぼくだけのぶちまけ日記』(スーザン・ニールセン作、長友(ながとも)恵子(けいこ)訳(やく)、岩波(いわなみ)書店(しょてん))はカナダが舞台(ぶたい)の小説です。
主人公ヘンリーの兄はひどいいじめを受け、ある日父親の銃(じゅう)で悲惨(ひさん)な事件(じけん)を起こし、自らも命を絶(た)ってしまいます。加害者(かがいしゃ)家族となった13歳のヘンリーは、周囲の嫌(いや)がらせから逃(のが)れるため、父と二人、都会へ引っ越(こ)しひっそりと暮(く)らそうとします。
しかし、新しい学校の友達や新居先(しんきょさき)の隣人(りんじん)たちはとても個性的(こせいてき)で、どんどんヘンリーに話しかけてきます。ヘンリーは戸惑(とまど)いながらも日々の出来事(できごと)や心の変化、そして家族を失った悲しみを日記につづっていきます。
三つの物語で共通するのは、家族の悩みを友達や先生、地域(ちいき)の人たちといった家の外の人たちと話し、いろいろなかたちで救(すく)われていくところです。家庭は社会に支(ささ)えられている部分も大きいようです。
(寺本真紀子(てらもとまきこ)・島根中央高校 学校司書)