朝が冷え込み、ようやくこの時季らしい気候になった。1週前の5日は高気圧に覆われ、山陰両県では最高気温が、益田市の27・8度をはじめ8地点で11月の観測史上最高を記録。「地球沸騰化」と呼ばれる時代の到来は不気味だが、昨今の陽気は見方を変えると合点がいく▼旧暦では、あす13日が10月1日。1872年に「改暦の詔書」が出されるまで千年以上使われてきた暦が現代でも採用されていれば、今は9月の終わり。夏日もさほど不思議とは思わずに済む▼とはいえ、時候のあいさつには苦心する頃。作家の伊集院静さんは、この手紙の書き出しにうるさいという。葉が黄色く色づき始めた時分に「秋の足音が聞こえてきました」と書いたところ、すぐに電話が鳴り「まだ早い」と注意されたと、松江市内であった直木賞作家の窪美澄さんの講演会に、飛び入りで登壇した編集者が明かした▼物書きは季節や自然により敏感なのだろう。東京在住で松江を舞台にした小説を書いた窪さんは、宍道湖の夕日に足を止める市民の姿に「空で起こっていることを気にする余裕が松江にある」と褒めた▼アスファルトやビルに覆われた都会地よりも、自然や季節を感じやすい地方に暮らす特権として、その余裕を失いたくはない。「寒くなりましたね」の後に、移ろいを切り取り、心持ちが上がるあいさつが継げれば、小さな気候変動対策にもなると思う。(衣)