乾燥室から運び出した板ワカメを並べる水産会社の従業員=2021年3月、島根県隠岐の島町加茂の加茂水産物加工場
乾燥室から運び出した板ワカメを並べる水産会社の従業員=2021年3月、島根県隠岐の島町加茂の加茂水産物加工場

 「島根のお土産は何がいいですか?」。著名人を招いて講演会を開く新聞社の政経懇話会の事務局長を務めた際、講師から必ず聞かれた。答えは決まっていた。「板ワカメです」▼シジミや出雲そば、和菓子、ノドグロ、赤てんなど数ある中で、板ワカメを薦めるのには理由がある。東京勤務時代、海のない栃木県の宇都宮市にある餃子(ギョーザ)屋の大将に贈った。「どうやって食べるの?」と聞かれ、軽くあぶって食べると伝えた。後日、「こんなおいしいものはない」と絶賛された▼同じ日本海側の人にとっても珍しいらしい。政経懇の講師として招いた北朝鮮による拉致被害者の蓮池薫さんは「新潟でもワカメはたくさん採れるが、板ワカメはない」と言っていた▼農林水産省は「うちの郷土料理」で、鳥取県の次世代に伝えたい大切な味として紹介する。「収穫した生わかめを板状になるように並べて乾燥させたシンプルなもので、味付けは一切しない」「軽く火であぶり、ごはんにかけて食べるとおいしい」「かつては鳥取県の献上品として昭和天皇もお気に召した品でもある」。最後に「山陰地方の特産品で全国的にあまり出回っていない」と記してある▼新型コロナウイルスが5類に移行し、初めての年末年始を迎える。多くの人が故郷に帰ってくるだろう。大切な人との団らんの場に、全国に誇る山陰の当たり前の味が並ぶ。そんな光景が目に浮かぶ。(添)