大ヒットドラマ『半沢直樹』の原作者として知られる小説家池井戸潤さんの初の映画化作品は、5年前公開された『空飛ぶタイヤ』だった。タイトル通り空中を飛んだのは、脱輪した大型トラックのタイヤ。その先には手をつないで幼い息子と歩く母親の姿があり、悲劇を招いた▼物語は、整備不良を疑われた運送会社社長が自社の無実を証明すべく、製造元の自動車会社がひた隠す不正を暴く戦いに挑む姿を描いた。主演の長瀬智也さんの鬼気迫る演技とともに強く印象に残ったのが、実際に起きた大手自動車メーカーの脱輪事故やリコール隠しが基になっていたことだった▼そんな映画の象徴的な場面を思い起こさせる事故が相次いだ。先月30日、浜田市内の国道9号で走行中の大型トラックのタイヤが外れて歩行中の男性に衝突。幸い軽傷で済んだが、翌日にも青森県八戸市の自動車道で同様な事故が起き、道路脇で作業していた男性が亡くなった▼季節的な要因もあるようだ。国土交通省自動車局によると、2022年度に発生した大型車の車輪脱落事故は140件で、うち79件が冬用タイヤへ交換する12月から2月の冬季に集中していた。装着後の点検が欠かせない▼残業規制が強化される「2024年問題」を控え、運送業界はさらなる人手不足が懸念される。だからといって、整備不良の言い訳にはならない。タイヤは空に飛ばすものではない。(健)