グロリア・エステファンのアルバム「カッツ・ボース・ウェイズ」(左)と「ミ・ティエラ~遥かなる情熱」
グロリア・エステファンのアルバム「カッツ・ボース・ウェイズ」(左)と「ミ・ティエラ~遥かなる情熱」

 キューバ系米国人の歌手グロリア・エステファンは祖国の音楽を生かし、ラテンポップの旗手となった。一番好きな曲は「オエ・ミ・カント」(1989年のアルバム「カッツ・ボース・ウェイズ」に収録)。ラテンパーカッションのリズムや哀愁漂うギター、ピアノもさることながら、グロリアの熱い歌声、そして、それが母語のスペイン語だというのがいい。

 中学高校年代だった1980年代後半に渡辺美里ファン仲間の友人に聞いて、グロリアがボーカルを務めるバンド、マイアミ・サウンド・マシーンを知った。「コンガ」(85年のアルバム「プリミティブ・ラブ」に収録)、「リズムでゲット・ユー」(87年の「レット・イット・ルース」に収録)はラテン調の軽快なダンスナンバー。父の影響でラテン音楽に興味があったので、ツボにはまった。
 

アルバム「カッツ・ボース・ウェイズ」


 歩みに共感も覚えた。グロリアは子どもの頃、キューバ革命の難を避けた親に連れられて米国に移った。マイアミ・サウンド・マシーンはもともとスペイン語の曲を作っていたが全曲英語のアルバム「ドクター・ビート」(84年)を作り、タイトル曲が当たって名を上げた。すかさず「コンガ」で祖国の祭りの音楽を取り込んでヒットさせ、スターにのし上がった。

 ソロ名義の活動に改めたアルバムで、満を持してスペイン語の曲「オエ・ミ・カント」を放った格好だ。

 この曲はスペイン語版と英語版があり、内容も少し違うのが面白い。スペイン語版は「表現は自由。感じていることを言えばいい。あなたにも自由はある。しかし、その共有は難しい。解決策を探さないと」といった内容。一方、英語版は「ありのままの私を受け止めて」といった内容だ。

 スペイン語版はキューバ系移民と祖国の国民の融和を訴える歌で、英語版は移民の心情を吐露する歌だろうかと想像が膨らむ。
 

アルバム「ミ・ティエラ~遥かなる情熱」


 アルバム「ミ・ティエラ~遥かなる情熱」(93年)は全曲スペイン語。しかも、ラテンポップでなく、完全にキューバ音楽に仕上げた。「ミ・ティエラ」は「私の故郷」という意味。グロリアのキャリアで一つの到達点だろう。

 収録曲「トラディシオン~伝統」がいい。パーカッションを前面に出し、チンドン屋のようなにぎやかな曲で、キューバ系米国人のジャズパーカッション奏者ダニエル・ポンセの名演「シボネイ」を思わせる。

 ここまでに築いた地歩が生き、このアルバムもヒットした。グロリアはきっと涙ぐんだに違いない。
  (志)