島根半島沿岸で使用された漁労用具のモジアミを紹介する松江市職員=松江市末次町、市役所
島根半島沿岸で使用された漁労用具のモジアミを紹介する松江市職員=松江市末次町、市役所

 「ようやく」と言うべきだろう。島根半島沿岸や宍道湖・中海で使われていた漁業の用具1598点を登録有形民俗文化財とするよう、国の文化審議会が文部科学相に答申した▼登録文化財は指定文化財に比べて国や地方自治体の財政的支援は少ないが、後世に残すべき文化的な遺産としてあらためて認知されるのは一歩前進だ▼これだけの点数がありながら資料が多くの人の目に触れることがないのは、平成の市町村合併で旧町村の資料館の維持が難しくなったことと無縁ではない。1960年代半ばまで使われた島根半島沿岸の漁具など905点も然(しか)りだ。74年、当時の島根町教育委員会の呼びかけで地道に収集された。ところが、拠点だった歴史民俗資料館が2018年に閉館。熱心な研究者や一部の地元住民を除いて、漁具は「忘れられた存在」だった▼例えば、山にある藤で紡がれた漁網「モジアミ」は、旧鹿島町の上講武に伝わっていた藤布を織る技術を用いて作られたもので、生活の道具であり、かつ民芸作品と言っていい。この紡織技術自体も、国の「記録作成等を講ずべき無形民俗文化財」であり、自然にあるものを生かす島根半島の住民の知恵の結集だろう▼そうであるならば、資料館を復活させて一堂に展示することは難しいにしても、デジタル技術を生かした紹介の方法など、歴史を受け継ぐ側にもさまざまな知恵の見せどころがある。(万)