自陣に引き戻した最強駒の龍は、横に強烈に働き、自玉の安泰に全く揺るぎはない。この瞬間、藤井聡太王将(21)は勝ちを意識したという。
龍は縦にも利き、その力を頼りに歩が成り、と金の一の矢、二の矢が相手陣を脅かす。菅井竜也八段(31)が天井を見上げ、やむなく投了を告げた。94手目のことで、持ち時間をまだ1時間以上も残していた。

「どこで悪くしたのか分からないんですよ。プロの先生に聞いても」。対局会場の国民宿舎さんべ荘(大田市三瓶町)に足を運んだ藤原雄三さん(86)=岡山県玉野市山田=がつぶやいた。西日本名人に加え、中国名人にも3回なったアマチュアの強豪棋士で、小学5年生だった菅井八段と出会い指導。今も頻繁に交流する。
菅井八段は子どもの頃から「ひらめき」があり、勝負根性も抜群。美濃囲いに使う金を盤上の奇妙な位置に移すなど、独特な感覚には師匠も戸惑ったそうだ。だからこそ今、王将戦の挑戦者という立ち位置にいる。
藤井王将は、1、2局に続き第3局も菅井八段を寄せ付けなかった。菅井八段は局後、初日の封じ手の前ごろから判断がつかないまま指したと振り返った。2日目は攻めるしかない展開となり、「しっかり受けられると負けるという将棋になった」と悔やんだ。
さしたる悪手は見当たらないのに優勢になっている。藤井将棋の底知れぬ力をこの日も見せつけられた。
(板垣敏郎)