松本清張が揮毫(きごう)した「砂の器」の石碑=島根県奥出雲町亀嵩
松本清張が揮毫(きごう)した「砂の器」の石碑=島根県奥出雲町亀嵩

 今年は松本清張(1909~92年)原作で、島根県奥出雲町亀嵩が物語の舞台となった映画『砂の器』の公開から50年。昭和を代表する名作だ。放浪するハンセン病の父と子が日本の風景美に満ちた各地で受ける差別、その先にあった親子の別れ…

 初めて見た時に号泣しつつ、上映時間という制約がある映画が原作を超えるには大胆な脚色が必要だと痛感した。原作で重きをなした殺人トリックは映画になく、人の情や恩人の殺害に至った犯人の宿命に焦点を当てた。

 ほぼ別の作品にされた清張はこの映画を気に入っていたという。インタビューで<四季の移り変わりというのか、ああいうものはやっぱり視覚独特のものですからね>と語った。映画好きで理解もあり、多くの清張作品が実写化された。脚本家は原作の構成を壊して再構成する必要があると立場を認めていた。

 原作とテレビドラマを巡り悲劇が起きた。『セクシー田中さん』や、島根が舞台の『砂時計』などで知られる漫画家・芦原妃名子さんの訃報。自殺とみられ、セクシー田中さんのドラマで自作と懸け離れた脚色に苦悩していたという。

 清張も思わぬ脚色に顔をしかめることがあったようだが、評価した多くの映画は、黒沢明監督の作品で有名な橋本忍さん(1918~2018年)が脚本を担当した。業界の違いはあるが、出会い次第で悲劇を防げたのではと思うと、やり切れない。(板)