岸田文雄首相のサプライズ対応で急展開したとはいえ、肝心な全容解明には程遠かった。これで幕引きを目指すようなら政治不信は解消されない▼自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を巡る衆院政治倫理審査会が一昨日まで2日間開かれ、テレビ中継された。首相が急きょ申し出た全面公開での出席に安倍、二階両派の幹部5人も倣った形だ。中継に耳を澄ました方もいただろう▼国民が知りたいのは誰がなぜ裏金づくりを指示したのかや、派閥幹部の関与の有無、裏金の使い道だ。「承知していない」「関与してない」「秘書の判断」などの弁明で納得できたかどうか▼「永田町の常識は世間の非常識」といわれ、裏金事件でも国民感覚とのずれが目立つ。民間企業ではあり得ない会計処理や一般市民との課税の公平性に疑問の声が上がるのも、そのためだ。そうした声に「聞く耳を持たない」ようでは政治への信頼回復は望めない▼きょう3月3日は「耳の日」。詩人・谷川俊太郎さんの作品に『みみをすます』という長い詩がある。全編が平仮名(一部片仮名)でつづられたその詩の一節には、こうある。<(ひとつのおとに/ひとつのこえに/みみをすますことが/もうひとつのおとに/もうひとつのこえに/みみをふさぐことに/ならないように)>。この事件を教訓に政治家には、永田町の声だけでなく国民の声に耳を澄ましてもらいたい。(己)