松浦正敬・前松江市長がまとめた回顧録『松江市政20年』
松浦正敬・前松江市長がまとめた回顧録『松江市政20年』

 先月、一冊の本が自宅に送られてきた。差出人は前松江市長の松浦正敬さん(75)。20年10カ月にわたる市長時代を、本人いわく「偽りのない思いや感情」で振り返った回顧録で『松江市政20年』の題名が付いていた▼平成の大合併で近隣7町村と合併し「新松江市」になった2005年に市政取材を担当した。最も印象に残っているのが、中国電力が島根原発2号機での実施を目指したプルサーマル計画への対応だ▼島根県が従来通り、国の安全審査前に受け入れの可否を判断する方針を打ち出したのに対し、市はいったん中電の申請を了承した上で、国の審査結果を見て可否判断する「2段階方式」を取り入れた▼「新松江市民の原発への意識がまだはっきりしない状況なのに、(合併前の)鹿島町の時と同じ手続きではいけないと考えた」と松浦さんは述懐した。合併により「原発が立地する唯一の県庁所在地」として一躍注目を集めた頃。他の施策の評価はさておき、市民の立場になって不安を少しでも解消したいという思いを、当時から感じていた▼翻って、現在の市政運営は市民の不安解消という意識がやや薄いように映る。象徴的なのが一畑バス4路線の廃止方針を巡る対応。中学生の進路を左右する問題なのに、存続を要請したのは方針を把握した2カ月後。「遅すぎる」と市議会で苦言が出たのは当然だ。市民の不安にもっと寄り添ってほしい。(健)