「お米のストックがあると幸せな気持ちになります。子どもがおにぎりが好きだから」。経済的に困窮するひとり親家庭が無料で生活必需品を受け取れる24時間営業のフードバンク「コミュニティフリッジ出雲」を利用する40代の女性は、非正規雇用で賃貸住宅に2人で暮らす▼離婚した元夫からの養育費はなく、月にかけられる食費は2万円。子どものおやつは遠足など特別な時にしか買わない。だからバンクにチョコパイが並んでいたとき「1箱ももらえるの」と歓喜した▼出雲市内に3カ月前にオープンしたバンクの食品や雑貨は、個人や企業からの寄付で、110世帯が利用する。こうした家庭は息を潜めるように暮らしているのか。出雲市だけでも、低所得のひとり親家庭に対する児童扶養手当の支給は1200世帯に及ぶが、バンクを開設した樋口和広さん(58)が現状を話すと「自分の周りにはいない」と驚く人が多いという▼自身も母子家庭で、母は食事を抜くこともあったという樋口さんが、手弁当でバンクを開いた目的は「周囲が子どもたちの実情を知り、支える世の中になるために」。ただ、善意の寄付は、能登半島地震の後はめっきり減った▼そんな話の途中、はたと暖房のスイッチを入れた。「維持費がけっこうかかるので、事務所は暖房をつけないようにしてたら寒さに慣れてしまって」。いえいえ、むしろとても温かい場所です。(衣)