選挙では当たり前の「演説」は、明治期に入るまで日本には存在しなかったそうだ。それ以前は、自分の意見を人に伝えるのは書面でまとめるのが一般的だった▼西洋文化の「スピーチ」に触れ「日本が欧米と対等の立場に立つ為(ため)には演説の力を付けることが必要」と、国内初の演説を行ったのが福沢諭吉。1874(明治7)年のきょうのことだ▼注目度の高い演説と言えば、政府の基本方針や政策を通常国会冒頭で示す施政方針や所信表明など首相演説だろう。古くは田中角栄氏の「日本列島改造」、小泉純一郎氏の「聖域なき構造改革」などキャッチフレーズが際立った。前職の安倍晋三氏の「アベノミクス」「三本の矢」も印象が強い▼では、現職の菅義偉氏はどうか。今年1月の初の施政方針演説では、新型コロナウイルス感染拡大を念頭に「(東京)五輪を人類がコロナに打ち勝った証しにしたい」と力説した。そうなれば格好良かったのだが、現状は「打ち勝った」には程遠い。一方で東京五輪の盛り上がりを政権浮揚につなげたいのか、国民の不安をよそに強行の旗を振る▼次期衆院選は東京五輪・パラリンピック後になる見通しで、「9月前半解散|10月投開票」の公算が大きい。結果的に大会期間中に「第5波」が訪れず、日本勢のメダルラッシュで沸けば、どんな演説をするのか。「打ち勝った」なんて恥ずかしくて言えないと思うが。(健)