北朝鮮や中国の軍事パレードのテレビ映像を見ると、一糸乱れぬ行進に不気味さを感じる。24時間あの調子ではないだろう。普段の生活でも全員が歩調を合わせるのは難しい。例えば誰もが交通ルールを完璧に守っていれば違反はゼロ。取り締まる必要はない。しかし人間はミスをするし、逸脱することもある▼新型コロナウイルス対策のため、東京五輪とパラリンピックに参加する選手約1万5千人と関係者約5万3千人には厳しい行動規則で臨むという。買い物や観光は禁止し、違反が確認されればペナルティーを科す。ただ、基準は示されていない。衛星利用測位システム(GPS)も使うが、24時間監視ではないらしい▼開催による感染拡大を懸念する国内世論を意識した対応だろうが、国民性も生活習慣も違う7万人近い人たちにどこまで徹底できるか。さらに観客上限を1万人にしても、五輪だけで延べ数百万人もの入場者が動く▼人間は社会的動物である。食事もすればトイレにも行き、歩き回りもする。しかも群れと行動を共にすることが多く、会話やスキンシップを通じて意思疎通する。一緒に笑ったり、叫んだりすることもある。それを完璧に制御できるのかどうか▼評論家の故山本七平さんは、先の戦争の教訓として「常識が判断基準にならなかった」と分析していた。コロナとの闘いで、国民の常識とのずれはないだろうか。(己)