北朝鮮に勝利し、仲間を祝福する長友佑都選手(右端)=21日、国立競技場
北朝鮮に勝利し、仲間を祝福する長友佑都選手(右端)=21日、国立競技場

 優れたワインはもれなく優れた熟成を重ねるという。時間の経過とともに角張った渋みや刺さるような酸味、果実味が一つにまとまり、まろやかな味わいや複雑な香りを生む。建築や文化財と同様、時の移ろいが価値を高める▼所属チームの監督が「赤ワインのように年齢とともに熟成している」と評したのが、37歳でサッカー日本代表に返り咲いた長友佑都選手である。復帰直後のJ1の試合で巧みなトラップから右足を振り抜き、14年ぶりの得点を挙げた▼アジア・カップで8強止まりに終わった代表の精神的支柱として白羽の矢が立った。「いい雰囲気、勝つ雰囲気には根拠がある。悪いときこそ長友が必要だと思われる存在でいたい」と頼もしい。イタリアの強豪に所属し、ピッチを駆け回った20代とは異なる味わいがある▼熟成と程遠いのが、今の自民党である。派閥の裏金事件を受け、政治倫理審査会に出席した幹部はいずれも自らの責任を回避した。「知らなかった」「覚えていない」。連発された空虚な言葉は、政治家に必要な熟成時間を経ずに要職に就いたからなのだろう▼日本代表はワールドカップアジア予選で難敵の北朝鮮を退けた。ベンチには仲間を鼓舞する長友選手の姿があった。ベテランと若手がかみ合い、フルボディーのような重厚なサッカーを展開する代表とは異なり、今の自民党は未熟なワインのようにコクも深みもない。(玉)