言語道断、「公僕」という名が泣く、国民に対する極めて悪質な背信行為である。
経済産業省のキャリア官僚2人が、新型コロナウイルス感染拡大で打撃を受けた中小企業などを対象とする国の家賃支援給付金約549万円をだまし取ったとして、詐欺容疑で逮捕された。警視庁は金の大半は高級時計やブランド品の支払いなどに使ったとみて調べている。梶山弘志経産相は「国民の皆さんに深くおわびする」と陳謝した。
経産省中小企業庁が所管する事業を、制度を熟知した足元の官僚、それもキャリアという将来の幹部候補が悪用していたのだから、その罪はより重く、深刻な事態と受け止めなければならない。
コロナ禍に伴う国の支援策を巡っては、これまでも個人事業主らへの持続化給付金を詐取したとして国税局や国立印刷局の職員が逮捕。このほか、東京都が飲食店に営業時間短縮を要請していた3月下旬に、感染症対策を担う厚生労働省の職員23人が、東京・銀座で深夜まで宴会を開き、クラスター(感染者集団)を発生させている。
長引くコロナ禍で、存続を断念した飲食店などは少なくない。給付金の支給が遅いとの苦情も数多く寄せられている。窮屈な自粛生活を強いられている人たちの気持ちになぜ思いが至らないのか。自分たちは安定した収入が保証されながら、国民に寄り添う目線が決定的に欠落している。
公務員の不祥事はそれにとどまらない。利害関係者に当たる放送事業会社の東北新社やNTTグループによる総務省幹部へのすさまじいまでの「接待漬け」が発覚、行政の公正・中立さに疑義が生じている。
ここ数年、森友、加計両学園、桜を見る会問題で、公文書の改ざんや資料の廃棄などが相次ぎ、森友問題では理不尽な上司の指示に苦悩した近畿財務局職員が自殺に追い込まれた。国会では平然と虚偽答弁する官僚の姿がまかり通る。
憲法15条で「全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」と規定された公務員の矜持(きょうじ)や使命感のかけらもない。まさに「吏道(官吏として守るべき道徳)」は地に落ちたと評されても仕方あるまい。表面化した問題は、コロナや国会対応で懸命に働く同僚への裏切りでもある。
ただ、こうした不祥事の連鎖は、官僚を指揮する政治とは無縁と言えるだろうか。昨年末以降、政治とカネの問題で閣僚経験のある自民党議員ら4人が説明責任を果たさないまま辞職、緊急事態宣言発令下の銀座のクラブ通いで公明党議員も政界を去った。安倍前政権時代から続く1強政治のおごりや緩みが後を絶たず、政治や行政の「モラルハザード」現象が進行している。
一度失った信頼を取り戻すのは容易ではない。梶山経産相は今回の給付金詐取事件について「同じ省内で起きていることに大変憤りを覚える」と語ったが、構造的な問題が潜んでいないのか、組織を挙げて徹底的に検証する必要がある。
「国民のために働く内閣」を掲げる菅義偉首相にとって、公務員倫理の確立は最優先課題になった。採用から入省後の教育も含め、現行のシステムを厳しく点検してもらいたい。もちろん、政治家自らが率先してモラルの回復を実践していく、それが大前提だ。