「国家に有用なる機械をせいぞうして奉公の誠を尽くし、世の公益を広めん」―。東芝の創業者で「からくり儀右衛門」と呼ばれた発明家の田中久重(1799~1881年)が残した言葉。幕末から明治期にからくり人形師から身を立て、万年時計を発明するなど近代技術の礎を築いた「東洋のエジソン」が嘆いているだろう▼東芝の企業としての統治の在り方が問われている。先月の株主総会で会社側が提案した取締役会議長らの再任案が否決された。背景に、経営陣と経済産業省が一体となって海外の「物言う株主」に圧力をかけた問題が指摘されている▼「カネは出すが、口は出さない」が、かつての日本型安定株主の作法だった。企業同士が株式を持ち合って会社乗っ取りを防ぎつつ、身内で経営を固め異文化を排除する▼こうした閉鎖的な企業風土を先頭に立って改革しようとしたのが東芝だったが、看板倒れだった。不正会計、大幅赤字による債務超過への転落などゴタゴタ続き▼そして経産省と組んだ、海外投資ファンドによる議決権行使への不透明な圧力。軍事上の先端技術を持つ東芝の重要事業が海外ファンドによって切り売りされれば日本の安全保障が脅かされる、というのが理由だが、それならそれで「世の公益を広めん」と正面から提起すればいい。現場は優秀だが経営が生かし切れない。そのからくりはどうなっているのか。(前)