寝耳に水、想定外、誤算-。言葉にすれば、そんな出来事の連続だった。15億円を超える負債を抱えて、自主再建を断念した米子市・皆生温泉の旅館経営「白扇」の民事再生手続きのことだ▼再建の進め方を巡り旅館側とメインバンクの米子信用金庫との対立が表面化。双方から提出された再生計画案は、5月の債権者集会でともに可決要件を満たせず、集会期日が7月に改めて設定された。裁判所の手続き開始決定は昨年5月。2度目の夏がやって来る▼温泉街の屋台骨である旅館と地域経済を支える金融機関。両者が「債務の圧縮」という法手続きの重さとは別に「再生」という言葉の前向きな響きを共有できないまま、たもとを分かつとすれば、残念と言うほかない▼米信案のみ決議対象となる次の債権者集会に向け、他の債権者宛ての文書送付など、可否を巡る水面下の綱引きが続けられる中、営業を継続しながら再建を目指す旅館を訪ねた。経営責任を取り役員から退いた前経営者が胸の内を語った。ふと力が入ったのは「自慢話」だった。真心のこもった仲居。腕利きがそろう料理人。「おもてなし最高」と四つ星、五つ星が並ぶ大手宿泊予約サイトの投稿が、印刷して通用口近くの壁一面に張り出してあった▼長引く対立はどこに行き着くのだろう。再生の要とも言える従業員たちの処遇が、その間も宙に浮いたままなのは、何ともやるせない。(吉)