東京都知事選で、半分ほどの枠が同一のポスター(左右と下)で埋め尽くされた掲示板=20日、東京都台東区
東京都知事選で、半分ほどの枠が同一のポスター(左右と下)で埋め尽くされた掲示板=20日、東京都台東区

 ハイジャックという言葉は米国で禁酒法が施行されていた1920年代に生まれたという。法の目をかいくぐって密造酒を輸送し、富を築くギャングがいた。一方で酒を輸送する車を狙った強盗も頻発した。犯人は運転手に気安く話しかけて油断させ、銃を突き付け物品を奪った。そのときの言葉が米国で一般的な名前にちなんだ「ハーイ! ジャック」だった▼こちらのジャックも相当にたちが悪い。東京都知事選を巡り、政治団体「NHKから国民を守る党」が企てる掲示板ジャックである。候補者を大量に擁立し、選挙ポスター掲示板を占有。団体に寄付する形でポスターを張る権利を販売し資金を集める前代未聞の選挙ビジネスだ。実際、凹の字形に同じ図柄が並ぶ異様な掲示板が所々に出現している▼公選法の理念や趣旨に反していると言わざるを得ないが、明確な禁止規定はないという。道徳を必ずしも法律で実現できない現実にぼうぜんとする。社会の変化に制度が対応していない以上、ポスターの事前審査など何らかの見直しが必要だろう▼悪名を糧にする輩(やから)は相手にしないのが一番だが、悪乗りに賛同する有権者が少なからず存在するのがもどかしい▼立花孝志党首は「多くの人が選挙に関心を持ち投票に行けば万々歳だ。選挙をフェスにする」とうそぶく。今後は政見放送もジャックするという。悪意が透けて見える「惹句(じゃっく)」に辟易(へきえき)する。(玉)