水産庁の実証事業で人工的に育てたシラスウナギ=4日、東京都千代田区
水産庁の実証事業で人工的に育てたシラスウナギ=4日、東京都千代田区

 これはウナギなの? 3年前に初めて宍道湖産の天然ウナギのかば焼きを食べた感想だ。養殖の味や食感より「魚感」が強く、ウナギが魚類に属していることを思い出した。店主に話すと「天然は、そのウナギが食べてきたものや生息環境によって味が違うんです。養殖は同じ場所で、同じ餌を食べて育ちますから」▼普段は手が出ない天然ウナギは、コロナ禍の飲食店を応援するプレミアム飲食券を活用して注文した。以来一度も食べていないが、今は養殖ですら手が出ない存在になりそうなほど、ウナギの資源量は減っているという▼養殖も稚魚は天然のシラスウナギ。その国内漁獲量は激減し、取引価格の高止まりが続く。一方で安価でおいしいウナギを食べたい「ウナギ欲」が、土用の丑(うし)の日を中心に高まるのが通例だ▼こうした現状を踏まえ、10年前から研究を続ける水産庁は今月、ニホンウナギの稚魚を人工的に大量生産する技術を発表。生態に謎が多く、人工稚魚の大量生産は最難関と位置付けられていたが、母ウナギから毎週200万粒程度の受精卵を安定的に採取、ふ化させて稚魚の大きさまで育て、生産コストを1匹当たり1800円程度に低減させることに成功した▼技術開発は結構なことだが、高まる人間のウナギ欲のため、まさに「産む機械」と化して受精卵を採取される母ウナギの身を思うと、少し恐ろしくなるのは私だけか…。(衣)