柔道日本男子監督の鈴木桂治さん(44)にとって〝初の五輪〟は衝撃の連続だったそうだ。井上康生さんとの代表争いに敗れて100キロ級の補欠に。100キロ超級代表の篠原信一さんの練習パートナーとして2000年シドニー五輪に同行した▼張り詰めた緊張感に国民の期待を背負う重圧。練習場にいるだけで胸が苦しくなった。「正直出なくてよかったと思った。こんな舞台でメダルを取るという覚悟と準備が自分にあったのか」と自戒した▼〝世紀の誤審〟にも立ち会った。金メダルを懸けた篠原さんの決勝。得意の内股すかしが決まったと思われたが、逆にそれが相手の有効ポイントと判定されて焦り、まさかの敗北を喫した。終了後「お前、相手を応援してただろう」と冗談交じりに話しかけられた。「悔しさを受け止め、周囲に心配を掛けないように振る舞う篠原さんをすごいと思った」▼この経験を糧に鈴木さんは04年アテネ五輪100キロ超級で金メダルを獲得。ところが連覇が期待された08年北京五輪は初戦で敗れ、「その時の記憶はない」と振り返る。栄光と挫折は交互にやって来るのか▼監督として初めて臨むパリ五輪が開幕する。「7階級全て金メダルを取るのが監督の役割」と気を引き締めつつ、男女混合団体にも目を向ける。前回東京五輪では決勝でフランスに敗れた。「今度はパリでフランスに勝ちたい」。挫折の次は栄光の番だ。(健)