デジタル人民元のアプリ画面
デジタル人民元のアプリ画面

 松江に住む中国出身の知人に日本での新紙幣発行の話題を向けた。返ってきた答えは「実感が薄い」。日本ではさまざまな話題になったが、中国では自国の紙幣が変わっても、ちまたで取り沙汰されることは少ないという▼それもそのはず。かの国では1999年以降、紙幣の肖像は、49年に建国された中華人民共和国の主席に就いた毛沢東(1893~1976年)の一択。以来、偽造防止の改良を重ねるも、肖像の主は不変だ。権力を一手に握る今の習近平国家主席に代わることでもあれば、政治的意味も含めて大きな話題になるだろう▼肖像の話をしているうちはほほ笑ましい。しかし通貨の問題はきなくささが漂う。中国は2019年から中央銀行の中国人民銀行が発行する「デジタル人民元」の流通を徐々に拡大。基軸通貨の座を「米ドル」から奪わんかの勢いを見せる▼デジタル人民元経済圏の国際社会への拡張は、今後、米国主導の経済制裁などが無効化しかねないといった懸念材料にもなる。佳境にさしかかる米大統領選でトランプ氏、新たな民主党候補のいずれかが当選しても対中政策は喫緊の課題だ▼貨幣を制する者は世界を制す-とは、昨年亡くなった米国きっての外交家、国際政治学者のヘンリー・キッシンジャーの言葉。「おめでたい」と承知しつつ、「ようやく手元に来たか」と新紙幣を眺めて喜んでいるくらいがちょうど良い。(万)