子どもたちに身近な絵本には、分け隔てのない「インクルーシブ社会」を考えるきっかけになる作品があります。その中から、インクルーシブ社会に詳しい、島根県立大の水内豊和准教授(臨床発達心理学)がお薦めの作品や読書のポイントを紹介します。

「ろってちゃん」の書影、ディック・ブルーナぶん/え まつおかきょうこ・やく(福音館書店)

 あーはは、双子のお友だちのこーす、けーしぇと一緒にボール遊びをしています。そこに、車いすユーザーのお友だち、ろってちゃんが現れます。あーはは、ろってを遊びに誘いますが、こーすとけーしぇは、何だか嫌みたい。3人で楽しく遊んでいたのに、ろってが入ったらつまらなくなると思ったのです。でも、あーはの取り成しで一緒にゲームが始まります。果たしてゲームの行方は? そして、4人の関係は?

 作者は「ミッフィー」でおなじみのオランダの絵本作家ディック・ブルーナさん、訳者はまつおかきょうこさん。シンプルでかわいい絵と、声に出してリズムよく読みたくなる文章に、子どもたちは自分とちょっと違う、ろっての活躍に引き込まれることでしょう。

「ろってちゃん」の一場面

 「ろってちゃん」の出版より前には、版元と訳者が異なる「ちいさなロッテ」としても出版されていました。図書館にあるのは以前のものかもしれません。蔵書検索するときには、どちらのタイトルも入れてみてくださいね。2冊は文章も、登場人物の名前も少し異なっています。ちなみにもともとのオランダ語版の原題は『lotje』なので、「ろってちゃん」が原版に近いニュアンスですね。

 私の研究では、3歳ぐらいの子どもは車いすユーザーと直接関わったことはなくても、スーパーなどの駐車場にある車いすのマークは知っていました。この絵本を読み聞かせる時は、肢体不自由のある人にとってのお助けグッズである車いすのことや、歩けないから何もできないという見方ではなく、お助けグッズを使えばできることがたくさんあることに気づかせるチャンスです。ぜひ、ろっての活躍を振り返りつつ話題にしてみましょう。

「ろってちゃん」の一場面

 もう少し年齢が大きいお子さんには、あーはの行動や思いにも注目させて、分け隔てのない「インクルーシブ社会」をつくる一人として、自分だったらどうするか、自分ごととして考える機会にもしてみるとよいですね。

 

みずうち・とよかず 岡山市出身。3児の父。島根県立大人間文化学部臨床発達心理学研究室准教授、公認心理師。発達障害の子どもや家族の相談支援、乳幼児健診の心理相談員、ダウン症、自閉スペクトラム症などの当事者と家族団体の支援などに長く従事する。現在松江市を中心とした障害や病気のある若者当事者グループ「オロチぼたんの会」の活動を監修。著書に「身近なコトから理解する インクルーシブ社会の障害学入門ー出雲神話からSDGsまでー」。