普段見慣れた日本海と比べ、太平洋は明るく雄大に感じた。2カ月前、高知市の坂本龍馬記念館を訪ねた。海に面した施設は海抜50メートルの高台にあり、屋上から見下ろす光景は「圧巻」の一言だった▼同時に恐ろしさも抱いた。南海トラフ巨大地震で大津波がやって来ると、ひとたまりもないのでは。「この施設は大丈夫ですが、周辺は冠水してしまい、営業できないでしょうね」と記念館職員。冗談交じりの会話だったが、南海トラフの足音は近づいている▼宮崎県南部で震度6弱を観測したおとといの地震。震源地は南海トラフの想定震源域内で、気象庁は発生可能性が平常時に比べ相対的に高まっているとして、初の臨時情報を発表し、震源域内の住民に注意を促している▼一方で、全域が震源域に入る高知県では対策が進んでいた。国内で最も高い34・4メートルの津波が想定される南西部の黒潮町は犠牲者ゼロを目指し、戸別津波避難カルテをつくって全世帯の状況と避難路などを把握。安全な高台に逃げ切るため約230の避難道を造り、間に合わない所では津波避難タワーを6基建てた。住民の防災に対する意識も高まっているという▼翻って、山陰への南海トラフの影響は太平洋側に比べて小さいとされる。必要以上に恐れる必要はないが、油断は禁物。今回の発表を機に、防災グッズや避難経路など改めて確認しておきたい。備えあれば憂いなしだ。(健)