緩やかな風に揺れる稲穂。傾斜面に階段状に造られた水田はきれいに整備されていた。ただよく目を凝らすと、稲が踏み倒された部分がいくつか見えた。「イノシシが入ったみたいだ。倒れた所は臭いが残ってしまう。諦めるしかない」と肩を落とす生産者。害獣の侵入防止用に設置された柵がむなしく思えた▼雲南市加茂町の南東部に位置する南加茂地区を訪ねた。北側を流れる赤川と国道54号が交差する一帯は2003年に43ヘクタールに及ぶほ場整備が完了。農林水産省の補助を受け、現在はその大半を「農事組合法人南加茂」(構成員62人)が耕作している▼「他の地区では場所の悪い奥地は耕作放棄地ばかり。うちは何とかやっているが、効率が悪く経費もかかる。その割にコメの品質が飛び抜けていいというわけでもない」。2月に就任した中島光一代表理事(81)からは不景気な話が続く。判明したばかりの害獣被害が追い打ちをかける▼とはいえ、ものは考えよう。赤川は1964(昭和39)年7月の集中豪雨で決壊し、町の中心部は全家屋が浸水した。本紙の前身・島根新聞が記した「古老も知らない空前の災害」から60年の節目。「再生」をキーワードにコメを売り込むこともできるだろう▼昨年夏の猛暑やインバウンド(訪日客)の増加などで、2023年産米の需給が逼迫(ひっぱく)している。山陰でも品薄なコメに注目が集まる中、アイデアも〝肥料〟になる。(健)