学生時代、北九州市の門司港が発祥地とされる「バナナの叩(たた)き売り」の口上を教わったことがある。<千円ないか! じゃあ900円! まだないか! じゃあ800円でどうだ!>。威勢のいい口上に、取り囲んだ客からは「高い!」「もっとまけて!」の声。売り手と買い手の掛け合いが楽しい。
日本で最も食べられている果物といえば、バナナを思い浮かべる人も多いだろう。手軽に口にでき、栄養価も高い。ところが草本植物に属し、植物学的には野菜の仲間だそうだ。
意外なのは生産地もそう。日本が輸入するバナナは8割ほどがフィリピン産。バナナといえば同国のイメージだが、世界の生産量で見ればインドが1位で2位が中国、3位インドネシアと続くという。
その生産地もいずれ変わってしまうのでは、と心配になる。気候の変化による農作物の品質低下や収穫量減少が国内外で報告され、台風や大雨の被害も増えている。漁業ではサンマなどの不漁が続く。生息域が変化しているようだ。身近なところでも、先日の本紙に浜田漁港のブランド魚「どんちっちアジ」の水揚げ量が大きく減少したという記事があった。
猛烈な暑さが続く中、コメの品薄も生じ、今の豊かな食があることが当たり前ではないと感じさせられた夏。バナナの叩き売りは、売り手が最初に提示した金額より値段が下がっていくのが特徴だが、品薄で上がるのは困る。(彦)