女流名人を奪還し、ファンにあいさつする福間香奈女流五冠=2月25日、広島県廿日市市
女流名人を奪還し、ファンにあいさつする福間香奈女流五冠=2月25日、広島県廿日市市

 大相撲にはかつて本場所で力士がけがをした場合、翌場所を休場しても番付が下がらない公傷制度があった。「やたら全治2カ月の診断書が出る」と揶揄(やゆ)されて2004年に廃止されたが、今になり復活に向けた検討が進んでいる。体格の大型化に伴い、けがに苦しむ力士が増えたのが理由だ

 将棋界にも「休場」を巡る議論が浮上している。第1子妊娠中の福間香奈女流五冠(32)が、体調不良を理由に挑戦中のタイトル戦で連続不戦敗を喫したからだ。仕事と同様に将棋にも「指し盛り」の時期がある。個人差はあるにせよ、女性の場合は出産適齢期とおおむね重なる。過去に多くの女流が妊娠出産と対局日程の兼ね合いで苦労してきただけに、妊娠出産の規定を設けるべきではとの声が上がる

 大相撲に目を移せば、28歳と若くして引退した元大関貴景勝の湊川親方もけがに悩まされた一人だ。通算4度優勝しながらも綱とりが懸かった場所で欠場し、横綱昇進を果たせなかった。本人は「けがも合わせて自分の実力」とのみ込んだが、公傷制度があれば確実に相撲人生は変わっていた

 福間さんほどの実力者であれば制度がなくても結果を残すだろうが、検討は後進のためでもある。タイトルホルダーの扱いを含めた規定は必要だろう

 女性活躍の環境整備は社会の映し鏡でもある。切った張ったの勝負の世界も時代に応じて変わる寛容さがあっていい。(玉)