再稼働が迫る島根原発2号機(左奥)。左手前が1号機、右奥が3号機=6月19日、松江市鹿島町片句
再稼働が迫る島根原発2号機(左奥)。左手前が1号機、右奥が3号機=6月19日、松江市鹿島町片句

 ギリシャ神話に登場するパエトーンは、人間の母と太陽神の父を持つ若者。自分をいじめた友人を見返そうと、父しか扱えない「日輪の馬車」を運転。馬を暴走させ、地上を焼き尽くしてしまう。

 漫画家の山岸凉子さんが1988年に発表した短編『パエトーン』は86年のチェルノブイリ原発事故を受け、神になり代われると思い上がったパエトーンを原子力を制御できるとする人間に重ね合わせ、原発の是非を問いかけた異色作。パエトーンは、地上を救おうとした最高神ゼウスによって馬車とともに雷で打ち落とされてしまう。

 山岸さんは昭和24年前後生まれの「花の24年組」と呼ばれる女性漫画家たちの一人。バレエや歴史を題材にした作品が多く、厩戸(うまやど)皇子(聖徳太子)を主人公にした『日出処(ひいづるところ)の天子』は高校時代に読んで衝撃を受けた。超能力者で同性愛者という設定の皇子が抱える圧倒的な孤独の描写に引かれ、次々に作品を手に取った。

 7日付本紙に山岸さんの記事があった。「物語が止めどなく頭に湧いてきて。それを表現せざるを得ない気持ちになってペンを走らせてきた」。パエトーンも描かずにいられなかったのだろう。東日本大震災後にウェブ上で無料公開された。

 中国電力が12月7日に島根原発2号機を再稼働すると発表した。破壊にもつながる核の力を使う以上、その在り方を常に考えなければならないと、作品を読み返して思う。(衣)