コミュニティフリッジ出雲に掲げられている利用者からの感謝のメッセージ=11月28日、出雲市大社町入南
コミュニティフリッジ出雲に掲げられている利用者からの感謝のメッセージ=11月28日、出雲市大社町入南

 <僕のあげたものでたくさんの人が幸せそうに笑っていてそれを見た時の気持ちが僕の探していたものだとわかった>。シンガー・ソングライター槙原敬之さんの『僕が一番欲しかったもの』の歌詞の一節▼すてきなものを拾った僕は、人に譲ってばかりで何も見つけられなかったが、振り返ってみれば…という内容だ。その境地に入るのは簡単ではないが、真理なのだとも思う▼経済的に困窮するひとり親世帯が無料で生活必需品を受け取れる24時間運営のフードバンク「コミュニティフリッジ出雲」が出雲市内に開設され、11月末で1年がたった。利用するのは190世帯。当初の6倍に増えた一方、物価高のあおりで提供品の寄贈は減っているという▼変わらないのは「自分の周りに困窮家庭はいない」と思っている人が多いこと。国の調査で中間的な所得の半分に満たない家庭で暮らす18歳未満の割合「子どもの貧困率」は2021年時点で11・5%。ひとり親世帯に限ると44・5%に上る。表面化しにくいのが現代の貧困の特徴で、三食を食べられない子どもはすぐ隣にいる▼「困窮は自己責任」「自助努力を」と見る向きも依然としてあるが、子どもにその責任や努力を負わせるのは酷だ。そんな子どもたちとつながる場がフードバンクや子ども食堂という形で身近にあるならば、私たちが「一番欲しいもの」は何かを考え、できることがある。(衣)