自民党の治安・テロ・サイバー犯罪対策調査会の会合で発言する高市早苗会長=5日、東京・永田町の党本部
自民党の治安・テロ・サイバー犯罪対策調査会の会合で発言する高市早苗会長=5日、東京・永田町の党本部

 1997年公開の米映画『フェイク』は、マフィア組織に潜入した元FBI捜査官の実話を基にした傑作。うだつが上がらない中年マフィアの役で、潜入捜査官(ジョニー・デップ)を弟分として最後まで信じようとする名優アル・パチーノの演技にしびれる。

 「まさかお前が…」と、こちらはうまく騙(だま)せるのか。潜入ではなく、捜査員が架空の身分証を使う「仮装身分捜査」の導入に警察庁が動いている。ターゲットは「闇バイト」を仕掛けて暗躍する犯罪グループだ。

 高額報酬、ホワイト案件などの誘い文句で交流サイト(SNS)に求人情報を投稿し、応募者に身分証の画像を送信させる。抜け出そうにも個人情報を盾に脅され、犯罪行為の要求がエスカレートしていくというから卑劣極まりない。身分証の偽造は違法となるが、手口が巧妙化する犯罪と対峙(たいじ)するには一線を越えた捜査も認められて然(しか)るべきだろう。むしろ対応が遅いぐらいだ。

 なりすまし捜査は摘発や抑止力につながる期待がある。とはいえ、悪賢い犯罪グループはすぐにかいくぐって新手を繰り出してくるに違いない。ならばやはり、手を染めてしまう若者に警鐘を鳴らし続けるほかなかろう。

 「楽して稼げる」なんて話は絶対に裏がある。誘い込まれた裏の世界の闇は果てしなく深い。年末年始は何かと入り用だからと、軽はずみにやってみようなんてくれぐれも思わないことである。(史)