年末の大掃除のため、丈夫な紙や箱を取っておくのが習慣になっている。棚に敷くほか、物の整理や仕切りに使う。隙間にちょうど収まると、取るに足りない自分の先見性に気をよくする。
フランス語で、あり合わせの道具や材料で物を手作りすることを「ブリコラージュ」という。新石器時代から約1万年もの間受け継がれた人間の知的行為であり、現代でもジャングルを移動生活するアマゾン川流域の先住民族は、それを日常的に実践する人を指す「ブリコルール」と言えそうだ。
彼らは「これだ」と思う物を見つけると、荷物に加える。興味深いのは、手にした段階で使い道が決まっていないこと。木切れ一本でも、その物と“目が合った”瞬時に役に立つと直感し、後に代え難い用途を見いだすという。
人類学者のレビストロース(1908~2009年)は、こうした未開社会の人々の思考様式を、設計図を前提に最適な材料と技術で効率的に作る「科学的思考」に対し「野生の思考」と定義した。
便利になったIT社会では、眠らされている思考であり能力ではないか。「(私どもは)自らは語り出さぬものたちを応答なしと勘違いし、そこを通りすぎてしまったように思う」とは作家の故石牟礼道子さんの言葉。眠った思考を起こす行為の一つが、普段何にも言わずに住人を守っている家の掃除ではないかと思い、年の瀬に念入りに手を動かす。(衣)