映画「わたしのかあさん 天使の詩」の舞台あいさつに立った山田火砂子監督(中段中央)、主演の寺島しのぶさん(上段左)、娘役を演じた常盤貴子さん(下段右から2人目)ら=2024年2月2日、東京都内
映画「わたしのかあさん 天使の詩」の舞台あいさつに立った山田火砂子監督(中段中央)、主演の寺島しのぶさん(上段左)、娘役を演じた常盤貴子さん(下段右から2人目)ら=2024年2月2日、東京都内

 突然の訃報に驚いた。3日付の小欄で触れた映画監督の山田火砂子さんが92歳で旅立った。掲載の2日後、山田さんが社長を務める映画制作会社が発表した。

 亡くなったのは1月13日。同25日に米子市内であった昨年公開の最新作『わたしのかあさん 天使の詩』の上映会に足を運んでいた。その際、舞台に立った次女でプロデューサーの上野有さんは山田さんの不在をわび、代わりにと短いメーキング映像を流してくれた。死は伏せられていた。大きな悲しみの中でのあいさつだっただろう。

 体調を崩したのは昨秋だったという。新作公開の上映あいさつのため全国を精力的に回っていたが、左肩を骨折して入院。今年に入って誤嚥(ごえん)性肺炎や敗血症を併発し、93歳の誕生日を10日後に控え、帰らぬ人となった。

 新作は知的障害のある両親の下に生まれた少女の葛藤を描いた。自身も重度知的障害の長女がおり「娘は無欲の生き方で心を満たしてくれる私の先生」と語っていたという。だからこそ2016年に相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」の入所者らが殺傷された事件への憤りは激しく、新作を撮る原動力となった。

 「闇の航路を進んでいくような不安な時代の羅針盤は『愛』。愛なくして何がある。それを伝えたくて次々に映画を作ってきた」という山田さん。次作のシナリオもほぼ完成していたという。まさに映画制作にかけた生涯だった。(衣)