鳥取県が購入したアンディー・ウォーホルの「ブリロの箱」(資料)
鳥取県が購入したアンディー・ウォーホルの「ブリロの箱」(資料)

 鳥取県立美術館(倉吉市)が来月30日に開館するのに合わせ、県が約3億円で5点を購入したアンディ・ウォーホル(1928~87年)作の『ブリロの箱』に関するアンケートを行うそうだ。米国のたわしの包装箱を模倣した1964年の作品。大量生産・大量消費の社会を表現するポップアートの名作として知られる。

 とはいえ「ただの箱に3億円も」と物議を醸しており、来館者に所有の意義を問うのが狙いらしい。この手の話題づくりの起源は、フランスの巨匠エドゥアール・マネ(1832~83年)にあるとみる。以後はその“延長戦”に過ぎず、斜に構えてみると、今さらブリロの箱でその手に乗るのは、術中にはまるような気分だ。

 マネは、裸体を描くなら女神など崇高で実在しない対象に限るという時代に禁を犯し、過去の名画をパロディー化して人間の裸婦を描き、周囲の怒りを買った。

 それでも表現自体は控えめで、妖しいポーズもある過去の名画を思えば、「先人の方が下品でしょ」とマネの皮肉が聞こえそう。その後はマネに影響された印象派の画家が台頭。宗教的ないかめしさや制約はなく、風景や日常をそれこそポップに描いた。

 マネが先鞭(せんべん)をつけた“パロディー合戦”は西洋美術鑑賞の楽しみの一つで、ブリロの箱は美術史をひもとく上で象徴的な作品でもある。でも、ただの箱だしなあ…。おっと話題づくりの術中にはまりそうだ。(板)