「虐待やDVは、たどっていくと(起因するのは)戦争ではないか」とは、日本公認心理師協会の信田さよ子会長の分析。何人もの女性相談を受けた中、1995年当時に40歳前後だった女性たちが父親から受けた虐待が際立ってすさまじいことが、ずっと謎だったという。
その解は、第2次大戦で日本人兵士が負った心の問題を調べた上智大の中村江里准教授の著書『戦争とトラウマ』にあった。戦争に起因する心の病は「戦争トラウマ」「戦争神経症」と呼ばれ、家庭内暴力、アルコール依存、無気力などさまざまな形で現れるとされる。
戦地での心の傷を誰にも語らず、語れず。その持って行きようのない苦しみが暴力という形で放たれた例は、程度の差こそあれ多くの家庭にあっただろう。
そもそも日本でトラウマという言葉が共有されたのは95年の阪神大震災以降。米国ではベトナム戦争の帰還兵の間で問題となり、治療体制がいち早く確立されたが、日本では家庭や個人の問題にすり替えられてしまった側面がある。信田さんは、今生きづらさを抱える人も、生育歴や家族をたどると戦争が深く影響していることがある、とラジオで話していた。
厚生労働省は昨年から戦争神経症の実態調査と結果の公開に取り組んでいる。途切れた物語を紡ぎ直すことで救われる人は多いはずだ。戦後80年。なかったことにされてきた事実に向き合う節目でもある。(衣)