この冬の降雪量は平年に比べて3割ほど多かった。日本海の水温が高く、大陸風が海上の湿った暖気とぶつかり雪雲が発生したためだ。地球温暖化が雪を増やすという不思議な現象だった。
現在、地表に見えるのは大山山頂の残雪ぐらいだが、目に見えない雪の恩恵は残る。雪は山に水を蓄え、じわじわ染み出し、水力発電の貯水量を増やす。スキー場の雪景色を「白銀」と呼ぶが、ダムの管理者は「雪を白い金と呼んでいます」と言っていた。
森林は多目的ダムに似ている。電力や上水道の資源確保とともに洪水調節機能を持ち、ゲリラ豪雨から下流の都市を守っている。この経済的恩恵は大きい。木材価格の低迷で林業経営は厳しいが、山を放置すれば山林火災が増し、保水力は落ちる。森の保全は生活の安全安心に直結している。
農業にも雪は味方する。水枯れの心配が減り、冷たい雪解け水が中国山地からゆっくり流れ出て、おいしいコメや農畜産物を育てる。水に恵まれた産地のイメージは地域ブランドの価値を高める。世界に打って出る農業を目指すには、かけがえのない地域資源となるはずだ。
樹冠によって日光が遮られ雪は緩やかに解け、それを山全体が蓄える。雪解け水は徐々に地下水となり大地を潤す。ゆったりとした自然界のサイクルの中で、雪は役に立っている。白銀の観光資源も白金の水資源も、ともに地方にしかない宝なのだ。(裕)