1974年10月、引退セレモニーで「わが巨人軍は永久に不滅です」とファンにあいさつする長嶋茂雄選手=後楽園球場
1974年10月、引退セレモニーで「わが巨人軍は永久に不滅です」とファンにあいさつする長嶋茂雄選手=後楽園球場

 3年半前に古里の鳥取市にUターンし、米作りと野球指導に励むプロ野球解説者の川口和久さん(65)には、うれしくも苦い思い出があるそうだ。

 広島の左腕エースとして活躍したが、家庭の事情もあって在京球団への移籍を希望し、1994年にフリーエージェント(FA)の権利を行使。社会人時代にかわいがってもらった西武の森繁和投手コーチから誘われ、「お世話になります」と返事をしていたという。

 ところが翌日、自宅に一本の電話が入った。「ナガシマさんという方から電話よ」という妻の声に受話器を握ると、電話の主は当時巨人の監督だった長嶋茂雄さん。「川口君、東京で待ってるから」という入団の勧誘に直立不動になったという。

 「(少年野球の)ピッチャーは背番号1だが、長嶋さんの『3』を着けさせてくれ、とねだったほどの大ファン」。憧れの人からの誘いに巨人入りを決めたものの、裏切ってしまった形の森さんからは「しばらく口を利いてもらえなかった」と動画配信番組で明かしていた。

 華麗なプレーや勝負強さで全国のファンを魅了し、数々のエピソードを残した「背番号3」が89歳で旅立った。「わが巨人軍は永久に不滅です」という名フレーズを残した1974年の引退セレモニーで、後楽園球場の電光掲示板に映し出されたのは「ミスターG 栄光の背番号3」の文字。月命日が3日なのも「ミスター」らしい。(健)