石破茂首相が退陣を表明する5日前の自民党両院議員総会。首相は参院選の総括をまとめた冒頭のあいさつで「おわび」という言葉を5回使った。あまりの低姿勢にその場で辞任を明らかにするのかと緊張が走った。
振り返ると「おわび」に追われた政権運営の一面があった。3月に10万円商品券配布問題が発覚。立憲民主党の野田佳彦代表は4月の本紙インタビューで「衆参予算委員会で反省、謝罪を34回言った」と指摘した。守りの姿勢が目立ち、物言う姿勢は影を潜めた。両院総会や退陣会見で自ら「らしさを失った」と悔いた。
ただ、参院選大敗後は「らしさ」も垣間見た。広島と長崎の平和式典、全国戦没者追悼式では、自らの言葉で語った。何より批判を浴びても政策をやり遂げようとする信念がにじんだ。遅かったのが残念だ。
一方、退陣直前に永田町では解散総選挙に向けた真偽不明の日程が駆け巡った。地位にしがみつくための解散とみられ、批判は免れなかっただろう。
土壇場で思いとどまった首相に対して、この人はそうはいかなかった。学歴詐称疑惑に揺れる静岡県伊東市の田久保真紀市長。自身に対する不信任決議を可決した市議会を解散。早速、大義なき解散への批判が渦巻く。地元の小学生は市長を念頭に、うそをつく人を「タクボる」と呼ぶらしい。市政を混乱させた「おわび」の気持ちがあれば、違う判断があったはずだ。(吏)













