島根半島と隠岐諸島の海岸に魅せられるようになったのは最近のこと。遊歩道はあるが、ほとんどは草木が茂り、あっても獣道のような踏み跡しかない。携帯電話の電波が届かない場所があり、海岸歩きは危険が伴う▼めったに人が入らない分、はるか昔の自然がそのままに残されている。海水の入り込む洞窟や奇岩の数々は、地上よりも渡船や遊覧船に乗った方が見えやすい。野鳥や魚が時折姿を見せる。市街地からわずか数キロの場所なのにこんな絶景があるのかと、行くたびに驚かされる▼先日は島根県西ノ島町の海岸でキャンプに参加した。約600万年前の火山活動で形成された島前カルデラは、島根半島とは異なる雄大さを誇る▼潮の流れや天気が目くるめく変化していく。何度か西ノ島に足を運んだが、観光コースとは別の〝定点観測〟は飽きることがない。夜は満天の星の下で岩場にマットを敷いて横になる。時折、風化により断崖の上から小石や砂が落ちてくる。当たるのが怖かったが自然の営みを感じた▼オンライン開催による日本ジオパーク全国大会が松江、出雲両市で始まった。隠岐と山陰海岸は世界ジオパーク、島根半島・宍道湖中海は日本ジオパークに認定されたが、世界に誇れる絶景をまだ多くの人が知らない。特に地元の人が気付いていない。啓発施設や解説の看板など整備は進んだ。あとは人が訪れるきっかけが必要だ。(釜)