連日で恐縮だが、ドラマ「北の国から」の熱烈なファンとしてどうしても書きたい。主人公・黒板五郎を演じた田中邦衛さんが亡くなった▼高倉健さん、緒形拳さん、藤竜也さん…。五郎役に数多くの俳優の名が挙がったが、誰が一番情けなく、だらしないかを考えると「文句なく邦さんだった」。脚本を手掛けた倉本聰さんがインタビューで語っていた。訃報に接し、邦衛さんだからこそ、不朽の名作は生まれたと思う。不器用ながら、ただ真っすぐに家族を愛する姿に魅せられ、泣かされ、憧れた▼誰とも分け隔てなく接し、誠実で、おちゃめなところもあって。カメラが回っていないところでも五郎だったと共演者は語る。撮影休みに訪れた先で衣装のマフラーを紛失。あちこち捜し回り、ようやく見つかった後、回った先を順に頭を下げて歩いたそうだ。ドラマの一場面のように光景が目に浮かぶ▼演出を担った杉田成道さんの追悼の言葉が染みる。「むしろ五郎さんの方が邦さんに近寄ってその身体にすっぽり入り込んだような気がします」▼シリーズの『’95秘密』で恋人の過去にこだわる息子の純に五郎は優しく諭す。<石鹸(せっけん)で落ちない汚れってもんもある。人間、長くやってりゃ、どうしたって。(中略)父さんなんか、汚れだらけだ>。人生の味わい深い汚れが似合う名優だった。垂れ目のしわくちゃの顔が、心にこびりついて消えないよ。(史)