言葉は「両刃(もろは)の剣」なのだ、と常々思っている。人の苦悩を癒やすこともできれば、使い方次第で簡単に心を傷つけ、命さえ奪ってしまう▼そう思わせたのが2年前、女子プロレスラーの木村花さん=当時(22)=が会員制交流サイト(SNS)で誹謗(ひぼう)中傷を受け、自ら命を絶った悲劇。民放のリアリティー番組に出演して憤慨する場面に、心ない言葉が浴びせられた。番組の制作側に過剰な演出がなかったか否かが問われている▼救う術(すべ)はなかったのか-。先日、テレビドラマ『ミステリと言う勿(なか)れ』を見て、ハッとした。子どもの頃にいじめを受けて万引を強制され「本当はずっと逃げたかった」と懺悔(ざんげ)する男性に、菅田将暉さん演じる主人公が「僕、常々思ってるんですが…」と前置きして静かに語り掛ける▼「どうして、いじめられている方が逃げなきゃならないんでしょう」「欧米の一部ではいじめている方を病んでいると判断しているそうです」。そんな考えが社会に浸透し、有効な手だてが打たれれば、悲劇は繰り返されないと思う▼ドラマの原作は漫画家田村由美さんの同名のミステリー作品。主人公の名前は「久能整(くのうととのう)」。人々が抱える苦悩を整える(癒やす)という意味があるのだろう。ミステリーより心に刺さる言葉の方に注目が集まる。それだけ現実社会がすさんでいるということか。言葉を生業(なりわい)とする身として、その重みをかみしめる。(健)