旅行家の兼高かおるさんは1958年、「世界早回りコンテスト」で東京を起点にコペンハーゲン(デンマーク)を往復し、約73時間の世界記録を樹立した。往路はバンコクなど6カ所を経由する南回り。復路はアンカレジ(米アラスカ州)を経由するスカンジナビア航空の北回り便を利用し、所要時間を短縮した▼80年代まで日本発着の欧州便は、ソ連領空を避けるため北極海上空を飛ぶのが主流だった。90年代に入るとソ連が崩壊してシベリア上空の飛行が可能になり、直行便の所要時間が大幅に縮まった▼ただ、直行便は高かった。ロシアのアエロフロート航空で欧州やアフリカに向かう経由便が群を抜いて安く、貧乏旅行に目覚めた学生がこぞって利用した。問題は乗り継ぎの悪さ。モスクワのシェレメチェボ空港の床に寝袋を敷き、24時間も待った経験がある。その間に預けた荷物が荒らされるのも恒例だった▼近年は直行便の料金体系が変わって安くなり、格安航空会社(LCC)を何度も乗り継ぎ欧州へ行く人も出てきた。しかし、コロナ禍が航空会社の経営を直撃。気軽な欧州旅行もできなくなってしまった▼ウクライナ侵攻の制裁として欧州連合(EU)はロシア機の上空通過を禁じた。ロシアも対抗措置を取り、EU内の航空会社は日本便を欠航せざるを得なくなった。北回り便復活が現実味を帯びている。時代は30年も後戻りするのか。(釜)