近づく「母の日」にちなんだ話題を一つ。夏目漱石の人気作品『坊っちゃん』に登場する愛媛・松山の下宿先のおばあさんは「◯◯のお母さんが見えて」と話すが、東京育ちの主人公は「◯◯のおっ母(か)さん」という言い方をしている。漱石のこだわりなのだろう▼脚本家の故水原明人さんが著書『江戸語・東京語・標準語』の中で指摘していた。小説を読み直してみると、確かに「おっ母さん」が何カ所か出てくる。この小説が発表されたのは1906(明治39)年。「おかあさん」という呼称は、実はその2年前にできた国定教科書『尋常小学読本』で初めて採用されたそうだ▼つまり「おかあさん」が標準になったのは118年前のこと。それまでは、「おかあさん」は主に西日本の一部などで使われていて、東京の庶民は「おっかさん」が主流だったらしい。そのため当初は、なじめない人も多かったという▼今では丁寧な言い方として使う「です」が登場したのも幕末から明治の頃。江戸期の「でげす」などと同様、元々は芸人などが使う軽薄な口調だったとか。それが「科学」や「権利」など外国語を言い換えた和製漢語の後に続ける便利な言い方として広まったとされる▼時代とともに言葉は変わるとはいえ、子どもの頃からの「おかあさん」という呼び方には愛着も、どこか温かみも感じる。8日はそんな思いを込めて使ってみよう。(己)