国立ハンセン病療養所「多磨全生園」を訪れ、納骨堂に献花する東京都の小池百合子知事=2017年4月1日、東京都東村山市
国立ハンセン病療養所「多磨全生園」を訪れ、納骨堂に献花する東京都の小池百合子知事=2017年4月1日、東京都東村山市

 新型コロナウイルスの流行前、上京する度にハンセン病療養所「多磨全生園」を訪れ、納骨堂の前で手を合わせた。引き寄せられるように足が向かうのは、潜在意識で何かつながりがあるのだろうか▼ハンセン病は、誤った隔離政策による強制収容や不妊手術、治療法が確立するまでの計り知れない患者の苦しみを世間の偏見と差別が助長した。その一端は手記や小説で知る▼ただ「北條民雄全集」(1938年)は安易に読めなかった。作家で患者だった北條は、川端康成に才能を見いだされながら23歳で亡くなった。代表作「いのちの初夜」をはじめ「癩(らい)家族」など病が進行する絶望の中、むき出しになった命そのものを問いかける澄んだ文章が胸をつく▼苦しみで思い出す一文がある。農民文学の代表とされる、長塚節の長編小説「土」(12年)。その序文で夏目漱石は「余の娘が年頃になって音楽会がどうだの、帝国座がどうなのと言い募る時分になったら、この土を読ましたい。面白いからではない、苦しいから読めというのだと告げたい」と紹介した▼国は2009年から6月22日を「らい予防法による被害者の名誉回復及び追悼の日」と定める。これに合わせ、島根県立図書館で7月6日まで、県庁ロビーは20日から7月1日の間、特設コーナーが設けられる。資料や書籍は、子ども用に書かれたものもある。誰かの心に刻まれることを願う。(衣)