大雨の影響で土砂崩れが発生した新潟県村上市小岩内地区=4日午前
大雨の影響で土砂崩れが発生した新潟県村上市小岩内地区=4日午前

 自家製みそにする大豆を自然栽培で育てており、この時季は週末の早朝、草刈りにいそしむ。根こそぎ刈ったり抜いたりはしない。どの草も必要だから生えており、草の頭をなでるように刈る。すると地中で細根が増え、土が軟らかくなる。徹底除草すれば土中は一気に乾燥し、イネ科などの強い植物がはびこる▼山梨を拠点とする造園家で環境再生医の矢野智徳さんは、これを「風の草刈り」と名付ける。矢野さんを追ったドキュメンタリー映画『杜人(もりびと)』を先日、雲南市で観賞した▼植物が枯れ生き物が減りゆく各地を巡り、矢野さんは「大地の呼吸」が弱っていることに気付いたという。大地の血管である水脈がコンクリート構造物でふさがれて、水と空気が循環せず、固まり傷んでいるのが原因。そこでスコップや重機で穴や溝を掘り、分断された水脈をつなぎ、窒息寸前の大地に息を吹き込む。「土砂崩れは大地の深呼吸。息をふさがれた自然の最後の抵抗」。矢野さんの言葉が深く胸に刺さった▼作家の故石牟礼道子さんも、テレビ番組で同様のことを言っていた。場所は、抗議活動で足を運んだ水俣病の原因となった工場の本社前。アスファルトに覆われた街の姿に「東京の大地は生き埋めになっている。その上のビルは近代の卒塔婆だ」と▼コンクリートの堅さで災害に強い地域を目指す国の国土強靱(きょうじん)化(か)対策が時にもろく、恐ろしく感じる。(衣)