出題されるパズルや暗号といった複数の謎を解き明かしながら、真相に迫っていく「謎解きゲーム」が人気だという。島根県内に仕事として謎解き問題を作り、自治体や民間団体に提供する謎解きゲーム作家がいる。どんな職業なのか、作家の男性に尋ねた。(Sデジ編集部・吉野仁士)
ゲーム作家の男性は松江市国屋町在住の奈良井健悟さん(40)。2011年から勤務した「ふるさと島根定住財団」を21年3月に退職し、翌月、謎解きゲームや飲食店経営、イベント企画運営を担う合同会社「NEW WORK STYLE」(松江市学園2丁目)を友人と立ち上げ、代表社員を務める。謎解きゲームで生計を立てる作家は、県内で他に聞いたことがないという。
起業して以降、島根県や島根県立大、地方放送局、木次線利活用推進協議会に謎解きゲームを有償で作って、提供した。ゲームを作ることは職員の頃から趣味で続けていて、これまで作った総数は100点以上に上るという。

例えば就職活動セミナーの謎解きで配布した問題用紙は、問題に対して3択の答えのうち一つを硬貨で削って答える様式。「本日のイベントの名称は次のうちどれ?」「島根にある企業数は何社?近いのは次のうちどれ?」といった、参加者ならば容易に解ける問題で、正しい回答を削るとまた新しい謎解きの指示が出てくるといったものだ。
▼ゲームにはまり100回以上体験
謎解きゲームは都市部に専用の施設が多数あり、年代を問わず人気が高い。知識を必要とせず、ひらめきがあれば老若男女、誰でも解ける問題になっている点が魅力だ。いくつもの謎を解きながら建物や部屋からの脱出を目指す「リアル脱出ゲーム」という名称でも知られる。
奈良井さんが謎解きゲームの楽しさに目覚めたのは2015年。東京都内の施設で同僚と初めて謎解きゲームを体験した。知恵を出し合って謎を解き明かし、脱出を目指すという面白さ、非日常感のとりこになった。

「自分は子どもの頃から宝探しのようなわくわくすることが大好きだったことを思い出した」と奈良井さん。それから全国各地で謎解きゲームを計100回以上体験し、趣味として自分で謎解きを作るようになった。そのうち「謎解きを交えればあらゆることを楽しみながら学べるのでは」と気づき、職員時代にも財団主催のセミナーなどに謎解き要素を織り交ぜて好評を得たという。
旧友に「合同会社を立ち上げたい」と誘われた時、「わくわくできそう」という思いで退職を決意した。忙しい時は謎解きを月に4本のペースで作る。奈良井さんは「お金をもらうに値する謎解きを考え続けるためとても忙しいが、人に楽しんでもらうための苦悩なので幸せ」とやりがいを話した。

▼世界観重視、制作に半年かかるものも
奈良井さんは依頼のあった団体に合わせて謎解きゲームを考え、有償で提供することを仕事にしている。謎解きを作る際に奈良井さんが最もこだわる点は謎解きの世界観だという。
具体的には、島根県職員の仕事を紹介するセミナーでの謎解きを担当した際に「職員の仕事内容ややりがい、大変な点を伝えたい」という目的を柱に作った。設定はゲームの主人公になる架空の女性の正体を探っていくという内容で、問題に答えていくにつれて県職員の仕事を少しずつ知ることができるという仕組みにした。結末は女性が実は県職員だったというもので、参加者はゲーム感覚で県職員の仕事について知ることができた。

こうした謎解きを作る期間は、構想を含めると約半年かかるものもあるという。問題はクイズだけでなく、迷路やパズル形式のほか、10円玉を使ったスクラッチや専用ホームページ、LINE(ライン)を活用して回答するものまで多種多様。問題用紙や宝箱といった小道具も用意し「非日常を感じてもらうためには大事なこと。準備は大変だが、文化祭感覚で楽しく作っている」と笑った。
これまでは財団の時の人脈を生かして仕事を受けていたが、今後は県内を舞台に幅広い団体、企業に向けて謎解きゲーム作家の存在をPRしていく予定。奈良井さんは「謎解きを組み合わせれば、とっつきにくい話題でも楽しみながら学べる。多くの人に謎解きの楽しさを知ってもらい、いろいろなことを効果的に発信していくお手伝いがしたい」と意気込んだ。

「セミナー」「説明会」という単語を聞くだけでも、人によっては堅苦しい印象を抱くかもしれない。確かに謎解きという要素が入るだけでわくわくしてきそう。奈良井さんが活動の場を広げることでさらに人気が高まれば、将来、島根発の謎解きゲームが全国に発信されていくかもしれない。
問い合わせや謎解きゲーム制作の依頼はnarai@newworkstyle.jp