ミルクを飲む赤ちゃん(資料)
ミルクを飲む赤ちゃん(資料)

 政府は、現下の物価高に対応する総合経済対策の一環として、妊娠、出産した女性へ計10万円相当の出産準備金を給付することを決めた。

 新型コロナウイルス禍で結婚や出産を控えるカップルが増え、2022年には年間の赤ちゃんの出生数が初めて80万人を割る可能性がある。妊娠、出産にかかる費用を支援し、子どもを産みやすい環境を整えようとの狙いは理解できる。しかし、子どもが生まれれば、子育て、教育の経済的負担は成人するまで続く。

 コロナ禍では若者も仕事が減ったり失われたりした。2人とも賃金が不安定な非正規雇用で働くカップルも多い。結婚、子育てに直面する若者世代の経済的不安は長丁場になる。妊娠や出産に合わせた一時的、単発的な支援では少子化への歯止めに不十分ではないか。息の長い少子化対策を再構築するべきだ。

 出産準備金は23年1月にスタートし、妊娠時と出産時に分けて支給する。同月以降に出産すれば10万円全額を受け取ることができる。22年4~12月末に出産した人は出産後の準備金のみ受け取れる。ベビー用品や子育てサービスの利用と引き換え可能なクーポンを発行するか、現金での支給とするかは各自治体の判断に委ねられる見通しだ。

 使途を出産、育児関係に限定できるよう政府は当初、クーポンだけでの支給を想定していたが、使い勝手や事務経費がかさむことに批判の声が出て、現金支給も認めることになった。

 この方針転換には前例がある。政府がコロナ対策の一環で21年11月に決めた18歳以下の子どもへの10万円相当給付は、当初案ではクーポンと現金で5万円ずつだった。だがクーポンは経費が900億円超かかると批判され、現金のみも容認。結局、クーポンを配布したのは全自治体の1%に満たない7自治体だった。

 政府は、国民の税金を使って政策を実行する司令塔だ。経費面のみならず、煩雑な事務負担も求める自治体への配慮を欠いた判断ミスは繰り返すべきではない。

 財源にも懸念がある。約80万人の赤ちゃん誕生に10万円ずつ配るなら、年間の総支給額は約800億円だ。政府は来年1月からの支給分を22年度第2次補正予算案に計上する。財源の大半は赤字国債による借金だ。

 若いカップルに出産準備金を渡しても、その借金の返済は彼ら将来世代へ負わせることにならないか。政府は23年度当初予算案にも計上し、事業を継続する方針という。国の一般会計歳入は3分の1を国債発行に頼るのが近年の財政状況だ。今後も将来世代へのツケ回しは続くだろう。出産準備金も恒久財源を確保しなければ無責任な大盤振る舞いになりかねない。

 政府は出産準備金での経済的支援と併せ、妊娠期から子育てまで一貫して困り事の相談に乗る「伴走型支援」も進める方針だ。乳幼児を抱えた若い家庭を孤立させない手厚い配慮を期待したい。

 若いカップルが結婚、出産に前向きになるには雇用や所得が安定して将来の経済的不安がなくなることが重要だ。政府は、税優遇も活用して企業によるリスキリング(学び直し)など「人への投資」を後押しし、「構造的賃上げ」実現を目指すとしている。企業側も待遇改善に努め、社会を挙げて若い世代の暮らし底上げに取り組みたい。