コロナ禍前に戻ったかのようなにぎわいだった。先週末、東京出張の空き時間に浅草を訪ねた。開運や商売繁盛を祈願する酉(とり)の市が前日にあったばかり。その盛況ぶりを引き継ぐように浅草寺雷門前は大勢の観光客でごった返していた▼感染を警戒し会議はリモートで済ませていたこともあり、東京出張は2年4カ月ぶり。前回は最初の緊急事態宣言は解除されていたが、浅草寺の人影はまばらで、定宿の築地のホテルでは滞在中、利用客と一人も会わなかった▼第8波は気になるものの、ワクチン接種も進み、にぎやかな観光名所が戻ってきたと喜んでいると、コロナ前との「違い」に気付いた。かつて日常風景だった外国人観光客の姿をほとんど見ないのだ▼政府は先月、水際対策を大幅に緩和し、1日当たり5万人の入国者数上限を撤廃。訪日観光客の個人ツアーを解禁した。入国制限はほぼコロナ前に戻ったとはいえ、浅草がこうなら、山陰への波及はまだ先だろう▼記録的な円安を受け、外国人観光客の増加を期待する声も多い。ただ、今回講演を聴いた大正大地域構想研究所の小峰隆夫教授は「日本の旅行が安売りされることは、労働力の安売りにつながる」と懸念。長期的には円高を目指すべきだと指摘した。国内観光業の売りはサービス力。「安売りジャパン」のまま賃金も上がらなければ、働き手も「貧すれば鈍する」に陥ってしまう。(健)