ワールドカップ(W杯)のドイツ戦で、ドリブルで進む日本代表の三笘薫選手(左)=カタール
ワールドカップ(W杯)のドイツ戦で、ドリブルで進む日本代表の三笘薫選手(左)=カタール

 昨年のサッカー・ワールドカップ(W杯)で、テレビの解説者が、選手の能力を評価するのによく使った言葉が「推進力」である▼自陣から力強くドリブルして相手陣へボールを運ぶ選手のことを「推進力が持ち味」と評していた。日本代表で言えば、左サイドを疾走した三笘薫選手が象徴的。前掛かりになった際にボールを奪われると即ピンチになるため、成し遂げるには勇気が要る▼地面を蹴って前へ進む際の足幅などの姿勢、前方のスペースを空けるようなチームメートの位置取りなど、自分自身の準備や周囲との連携が物を言う。孤軍奮闘、ギャンブルの要素がある「突破力」とはいささか趣が違う▼国の根幹である防衛力強化を巡り、昨年末に増税を含む防衛費拡大の大枠を示した岸田文雄首相。サッカーに例えるなら前半、自陣の深い位置でボールを受け、いざ前へ行こうと足を踏み出すところと言える。まずは近く召集される通常国会で国会議員や国民と向き合い、センターラインを越えて前進できるか▼憲法改正、外交での情報収集・分析能力の強化、財政の優先順位付けなど、今まで先送りしてきた根本問題の解決へ道筋を示すことと連動させながらでないと、数の力を頼りに突破はできても、「説明不足」や「増税反対」の声を堂々と論破する推進はおぼつかない。政治の現場で政府、与党に見たいのは、突破力ではなく推進力なのだ。(万)