20年ほど前、連載記事の取材で島根県内の保育所を回ったことがある。園児が集団で外遊びや伝統行事を体験し、食材にこだわった給食を味わっていた。悩む保護者には経験豊富な保育士が助言した▼熱心な施設が多かったためでもあるが、家で子どもを見ていたわが家にはうらやましい環境だった。核家族化・少子化が進む時代に在宅で子育てをするのは、孤独な「孤育て」といわれるほどに苦労はあり、共働き家庭とは違う意味で「保育に欠ける」状況だと感じていた▼保育所や幼稚園に行かない子どもは当時「在宅児」と呼ばれたが、今は「無園児」の言葉も生まれ、改めて注目されている。そうした子どもの育児負担軽減のため国は4月、保育所の空き定員を利用した週に数回の定期預かり事業を始めるそうだ▼親子が孤立し虐待が懸念されることからの対応だ。「ようやくか」の印象はある。週数回、20~30自治体のモデル事業であるのは限定的だが、子育ての喜びを実感する家族が少しでも増えることを願う▼何事も「最初が肝心」と言うではないか。子育ての始まりが順調なら良好な親子関係が築け、その先の小中学校の安定にもつながる。保育はもっと重視されるべきだ。待機児童解消はもちろん、望めば誰でも通える保育所全入制度になれば、救われる親子は多い。大仰に「異次元」というなら、思い切った少子化対策を見せてほしい。(輔)