万華鏡、美雲(みくも)、銀河、茜雲(あかねぐも)と聞いて、ピンとくる人はどれだけいるのだろう。答えは、島根県が全国に誇るアジサイのオリジナル品種。今月9日の「母の日」には、新顔の星あつめが試験出荷された。近所の花屋ではお目にかかれなかったが、市場の評価は上々のようだ▼<紫陽花(あじさい)や 壁のくづれを しぶく雨>と俳人の正岡子規が詠んだように、本来は梅雨時季の水滴が似合う花。それがいつしかカーネーションと肩を並べ、一足早く母の日に贈る定番になった▼理由は諸説あるようだが、最大の需要期を目がけて開花を調整できるのは、生産者の綿密な栽培管理と技術あってのことに違いない。さぞかし苦労も多かろう▼片やこちらは「7月末までに」と首相が約束したスケジュールに間に合わせられるのかどうか。新型コロナウイルスワクチンの高齢者向け接種が各地で本格化し、山陰両県でも始まった。国は接種加速に前のめりながら、実務を担う地方自治体はてんやわんや。目標期限内の完了に早くも白旗を揚げる自治体もあるという▼接種予約の電話もインターネットもつながらないとは、高齢者の不安とイライラは募る。まだかまだかと待ちながら、都会地では若者が「路上飲み」で騒いでいるというから、やりきれない。それでもここは冷静に、どうかもうしばらくの我慢を。「辛抱強さ」の花言葉を持つアジサイをせめてもの癒やしに。(史)