住民に配られるワクチン接種の資料には「かかりつけ医」という文言が各所に記されている
住民に配られるワクチン接種の資料には「かかりつけ医」という文言が各所に記されている

 新型コロナウイルスワクチン接種で集団接種の予約を取り損ねた高齢者は個別接種に頼るが、受け皿が小さい診療所の一部は「かかりつけ患者」に絞る。かかりつけの定義は曖昧で住民、医療現場ともに困惑し「集団接種が十分あればいいのに」との声も漏れる。

 自治体が住民に配る接種券の関連資料には「かかりつけ医に相談を」との文言が目立つ。しかし、その捉え方はまちまちだ。島根県は「日頃の生活習慣を理解し、罹患歴をある程度把握する医師」、松江市は「普段から定期的に通う近場の病院、診療所」と説明する。

 病院、診療所側の線引きもさまざま。松江市内の診療所院長は1日に対応できるのが5、6人にとどまるとし「(来院が)年に1度の患者さんは断らざるを得ない」と吐露。米子市内の診療所は「悩ましい問題。患者さんがそう思えばかかりつけだ」と強調する。

 「開業医では一日にわずかしか接種できない」と聞いた松江市矢田町の今井修さん(72)は個別接種を諦めたという。

 混乱を防ごうと住民への周知を工夫した自治体もある。当面、個別接種のみで対応する浜田市は市民に配る病院、診療所一覧で「かかりつけ患者のみ」「誰でも可能」と分類した。それでも「身近な病院が既にいっぱいといった問い合わせが入った」と市新型コロナウイルスワクチン対策室の久保智室長。対応の難しさを口にした。

 市内診療所の担当者は通院頻度の低い患者は受け入れがたい現状としつつ「近所の人や常連の親族ら義理と人情で受けることもある」と指摘。「しっかり集団接種の機会を設けるべきだ」と言葉を続けた。(多賀芳文、中島諒、森みずき)